ヒゲおじさんの独り言
DC(確定拠出年金)の加入者は無関心

「無関心」なのは当たり前

無関心

長い間、DCの運営管理機関の仕事をやっていましたので、加入者とのコミュニケーションにはずいぶん色んな工夫をしました。ちなみに、今「コミュニケーション」という言葉を使いましたが、実を言うと、アメリカではDCの加入者にはいわゆる「投資教育」はほとんど行われていません。意外と思われるかもしれませんが、事実です。
その証拠にアメリカにはそもそもDCでは“投資教育”という言葉自体が存在しないのです。代わりに使われているのは“Participant communication”(加入者コミュニケーション)という言葉です。

アメリカの401kは入りたいと思った従業員が任意に加入しますので、最初から「自己責任」と「自助努力」がワンセットになっています。ところが日本のDCは、もともと退職金制度ですから運用結果の「自己責任」はあるものの「自助努力」ではありません。なぜなら掛金は全額会社が出すからです。(最近は従業員拠出のできる仕組みもできましたが、まだ1割程度です)そこでいつも話題になるのが、「DCの加入者の無関心」ということなのですが、これも私に言わせれば当たり前の話です。だってもともと退職金なんですから、何もしなくても退職したら貰える、つまり天から自動的に降ってくると思っているものをある日急に、「今日から自分で管理・運用しなさい」と言われてもそんなことは現実感がなくて当たり前です。そりゃあ、理屈はわかるでしょうが、ほとんどの人にとっては導入時の説明会の時だけは何となく意識するものの、次の日には忘れてしまいます。

体験しないと学べない

加入者

自分で確定申告しないのはおろか、税金がいくらぐらい引かれているかも無関心、厚生年金保険料だって毎月何万円も引かれているのに全く意識していない、挙げ句の果ては年1回送られてくる「ねんきん定期便」すら、一度も見たことがない。そんな人たちに「DCが無関心なのはけしからん!」などと言ってもみてもしょうがないことだと私は思います。だからと言って地道に継続教育をしなくても良いとはいいませんが、所詮継続教育の場を作っても、受ける側に熱心さがなければあまり効果は期待できません。アメリカでも多くの加入者が関心を持ったのは、90年代に米株式市場が大きく上昇したからです。恐らく今までの日本では「関心を持ちなさい」と言っても到底無理な話だったのです。でもここからはひょっとしたら市場が上向く傾向が続けば関心は高まるかもしれません。と同時に株式市場というものは永遠に上がり続けることはありませんから、どこかでまた暴落が来るでしょう。その時に初めて学ぶことになるのだろうと思います。普通の人間は自分が経験したことでしかなかなか学習はできないものです。

本来であれば、こんなに他人任せで“自立”からは程遠いところにいる日本のサラリーマンにとって、DCなどという制度は合っていないのかもしれませんね。でもそんなことを言っていたらいつまでたっても日本人は自立できないでしょう。これから向う300年間、日本が鎖国できるのならまだしも、グローバルな社会では絶対に無理です。それにDBのみの制度で日本の企業がどこまで財務的に持つのか?ということも不安です。したがって、時代は間違いなくDC中心にならざるを得ないだろうと思います。

自立するためには

多くの人は勘違いしていますが、実は日本人は江戸時代から非常に“自立”の意識が強い民族だったのです。今みたいに銀行預金が金融資産の7割などということは戦前にはありませんでした。1940年、国家総動員体制になってから庶民のお金は銀行に吸い上げて軍需産業に傾斜配分するという仕組みが出来上がり、戦後は同じ要領で復興のために銀行を通じた産業資本の形成がすすめられたからです。半世紀以上に亘る政策の結果として国や会社に頼る人間が増えてしまったのだろうと思います。でもここから本当に“自分の頭で考え”、“自分で判断する”人が増えていかなければいけないと思います。

一番スッキリするのは、退職金や企業年金は全て廃止して、アメリカ型の401kにすることでしょうが、さすがにそれは急には難しいでしょう。ぬるま湯に慣れきった人をいきなり吹雪の中に放り出すようなものだからです。まずは年末調整を廃止して、全てサラリーマンも確定申告することにすればどうでしょう?状況は劇的に変わると思うのですが...