最近、再び多くの企業で確定拠出年金が導入され始めています。今年の3月末時点で、実施事業所数は1万7,000社を超えており、先日は国内でも最大規模の企業であるNTTも導入することが報道されたばかりです。
一般的にサラリーマンが加入するのは企業型確定拠出年金ですが、言うまでもなくこの制度は、加入者である社員自身が自分で年金を運用する仕組みです。運用の方法は人それぞれによって変わりますから、将来受取る年金額も運用の結果次第ということになり、人によって変わってきます。そこで、こういうことを言う人もいます。「今までの企業年金は、会社が将来に支払う金額(給付額)を保証してくれていたから確定給付年金だけど、確定拠出年金は、言い換えれば “不確定給付年金”なんだから、加入者である我々にとって不利になるんじゃないの?」
この意見は、一見もっともに思えます。でももう少しよく考えてみましょう。
確定給付年金って、名前の通り、本当に給付が確定しているのでしょうか?
そもそも企業年金とは、①会社が従業員のために掛金を積立てて ②そのお金を運用し ③退職後に支給する 制度です。これは今話題になっている公的年金のような社会保障制度とはやや主旨が異なり、言わば会社の退職給付制度、もっと端的に言えば報酬の後払い的な意味合いを持っています。
どんなに運用がうまくいかなくても会社が約束したお金を支給してくれるのなら、こんなにありがたいことはありません。ところが実際には運用が予定通りにはうまくいかなくなると、その補填をしないといけないために、実質的に制度を維持していくことができなくなったり、最悪の場合、企業年金のために会社が破綻してしまうということさえ、ありえないことではないのです。この原因は先の①、②、③の部分で言えば②にあります。つまり、全社員の老後資金を会社が一括して預かり、マーケットが変動する中で運用することから生じるリスクを常に持ち続けなければならないという不安定さです。企業年金のために会社が破綻してしまう、などということは避けなければなりませんから、そうならないようにするためには、企業年金をやめてしまうか、給付減額といって、あらかじめ約束した年金の支払額を減らすということになります。どうですか?そうなっても“確定給付年金”と言えますか?
それなら、①にあるように、会社は従業員の将来のために掛金を積立てられるだけの余力はあるわけですから、「掛金は今まで同様、会社が出しますから、②の運用の部分はみなさん自身でやってください」、というぐあいにすればどうでしょう?確かに運用成果によって個人の受け取る金額は変わりますが、少なくとも年金基金等が解散して将来、年金が受け取れなくなるという事態は回避することができます。
これが確定拠出年金が増えている一因と言っていいでしょう。
それに、確定拠出年金の場合、個人毎に専用口座を作り、会社が出す掛金をその口座に入れますから、仮に勤めている会社が破綻した場合でも、自分の年金資産は会社とは関係なく保護されます。
確定拠出年金は、自己責任による運用ということで、「運用リスク」を加入者が負わなければならないことばかりが強調されているような面がありますが、逆に年金の「破綻リスク」や給付減額といった「約束不履行リスク」がない分、従来の企業年金よりも安心といえる面もあるのではないでしょうか。もちろん単に確定拠出年金を導入すれば、企業としての責任がなくなるわけではありません。実は企業にとっては確定給付企業年金以上に確定拠出年金で企業が負うべき責任は重いのです。これについては次回でお話します。