前回、資産運用において想定外の出来事はしばしば起きるということをお話しました。そして特にマーケットの価格変動というのは自然災害にも似ており、いつやってくるのかを正確に予測することは誰もできないということでした。では、これを防ぐ手立てはあるのか?というのが今回のお話です。
結論から言いましょう。防ぐ手立てはありません。短期的には株価は完全にランダムウォークをします(酔っ払いの千鳥足のように行方の定まらない動き)。そしてマーケットの大きな価格変動は理論通りに起きるわけではありませんから、事前に察知するのは難しいのです。よくテクニカル分析をやっている人の中には、「チャートの形から暴落はわかる」という人もいますが、では完全に当てることができるか?というとそれは無理でしょう。チャートにだって常に“ダマシ”といわれる想定外の動きはいくらでも起こりえます。言わば気象予想図である程度想定はできても必ずその通りにならないということと同じです。前回もこういう突然の暴落から逃れるためには「神がかり的な予知能力を発揮して事前に逃げる」か、そもそも「価格変動のあるものには一切投資しない」という二つしか方法はなく、そのいずれもがあまり現実的ではないということをお話しました。したがって株式で運用をしている限り、基本的には突然の暴落から逃れる手立てはないのです。
では一体どうすればいいのか?というと、暴落は必ず起きるということを前提として対策を考えるしかありません。これもずばり結論から言ってしまえば、分散投資しておくしかないのです。それもマーケットポートフォリオに極力近い形で分散投資をしておく。具体的に言えば、グローバル株式に市場の規模や経済の規模に合わせて分散投資をしておくということです。短期的にはリーマンショックのようなことがあっても未来永劫に世界中の株が全て下がり続けるということはあまり現実的ではないからです。
さらにもっと安全策をとるのであれば異なるアセットクラスへの分散投資をしておくこと、それも伝統的な四資産以外の異なる資産も含めて相関の度合いの低いものに分散しておくことでしょう。日本は確かに地震が多いけど、全ての地域で同時に地震が起きることはあり得ない。とすれば財産を各地に分けておけば安心できるというのと同じことですね。
でも実はもう一つの対策があります。以前、ウォーレン・バフェットは決して分散投資はしていない。長期に利益の成長する株式の価格が安い時に仕込んでおき、長期に保有するということを実践しているということをお話しました。これも恐らく暴落があってもなくても長期的に安心して株式を保有することができる対策でしょう。つまり市場がどうなろうがバリュー投資をしておけば心配ない、どころか逆に暴落はバリュー投資家にとっては絶好の買うチャンスになるので恐れる必要がなくなる。という考え方です。例えば簡単にPERやPBRでも良いし、ROIC>WACCという基準で考えても良い。要は価値に比べて価格の安い株式を持っていれば暴落など関係ないということです。これは自然災害対策で言えば、耐震設計や強風などにも耐えうるような設計のなされた質の良い家に住むことと言ってもいいでしょう。
ただし、これにはある程度、設計の技術が必要になりますので先ほどの分散投資に比べると、少しハードルは高くなります。もちろん自分でできなければ腕の良い設計士さんに任せる、すなわち優秀なファンドマネージャーの運用する投資信託を購入するという方法もありますが、この場合、いつ設計士さんが辞めたり交替したりするかもしれないというリスクもありますから(笑)絶対というわけではありませんね。したがって自分で勉強してある程度の時間をかけてもいとわないという人であれば、バリュー投資も一つの有力な方法でしょう。でも多くのサラリーマンのように勉強する時間も気持ちも余裕がないという人であれば、前述のグローバルな分散投資というのが一番現実的な対応策ではないかと私は思っています。今なら、1本か2本でグローバルインデックスに投資できるような投資信託やETFも存在していますから。
良い時代になったと思います。