お金を運用していく上で、避けては通れないのが、「リスクとリターン」についての正しい知識であると言えるでしょう。ところが、意外とこれについては、正しく理解されていない場合が多いようです。色んなところでお金の運用に関するセミナーが行われているのですが、その講師ですらあまり正確なことを言ってない場合があるのにも驚きます。
一般的に、リターンの定義は比較的明確です。運用あるいは、投資をした結果の収益のこと(場合によってはマイナスリターン=損失、も当然ですが)だからです。
これに対して、リスクという言葉は受取る人にとってまちまちです。通常、世の中で使われているリスクという言葉は、「危険」或いは「損をする可能性」といった意味に理解されています。私は、これはこれで別に間違っていないと思うのですが、よく投資教室の講師の方などは、『リスクとは危険とか損をすることを表わすのではありません。結果の不確実性を意味しているのです』などと、得意気に強調している場面を見かけます。これは、投資理論において、リスクという言葉を定義する上では正しいのですが、これでは、どことなくわかりにくいという印象が否めません。「結果の不確実性」というのは、要するに「儲かるか損するかわからない」ということです。
投資理論というのは、この不確実性、すなわちリスクの程度を数値で表わすことによって、運用方針を決めたり、結果を予測するための方法論です。
特に、お金の運用を職業とする人たちにとっては、「儲かるか損するかわからない」では困る(尤も、最終的にはどうなるかはわからないのではありますが)わけですから、リスクを数値化することによって損がどれくらい発生するかの可能性を測りながら、リターンを得られるように運用の方法を決めているわけです。
株式などのように価格の変動のあるものは、儲かるか損するかわかりませんから、当然リスクがあるということになるわけですが、預金などのように金利が決まっているものは、投資理論の世界では“無リスク資産”と呼ばれます。しかしながら、これはあくまでも運用理論の上で、結果に儲けや損のバラツキが生じないからリスクが無いとされていますが、実際には、預けた先の金融機関が破綻してしまったりすることもリスクと考えるべきで、そうすると銀行預金は無リスク商品とは言えなくなります。こうしたリスクは信用リスクと言います。
また、取引の量が少なく、いざ換金したい時に換金できなくなるというのもリスクと言えるのではないでしょうか?こういうリスクは流動性リスクと言います。
冒頭、お話した投資教室の講師が力説する「不確実性のことをリスクと言う」というのはあくまでも価格変動のあるものに投資する時にその結果が読めないこと、すなわち価格変動リスクのことを指しているのであって、これは言わば投資理論上でのことであり、狭い意味でのリスクということがいえるでしょう。
実際にお金を運用するときには。もう少し広い意味でのリスク、先ほどの信用リスクや流動性リスクも考慮することが大切です。
とはいえ、狭い意味での価格変動リスクも大変重要で、自分が運用しようとしているお金が、一体どれぐらいのリスクの程度に耐えられるのか?ということを考えることが必要であるといえるでしょう。これは何も難しいことではなく、そのお金の目的によって簡単に判断できます。子供の入学資金や住宅の頭金のための資金は、あまりリスクの高い商品で運用すべきではないことは誰しも理解できると思います。一方、運用期間が長い老後のための資産形成であれば、一定の割合でリスク資産も持っておくことが必要ではないかと思います。
最近、株式市場が好調ですが、やはり株式投資はあくまでも価格変動に耐えうる資金で行うべきであるというのが基本といえるのではないでしょうか。