ヒゲおじさんの独り言
公的年金と企業年金

年金はリスクを取るべきか取らざるべきか?

年金運用

以前、ある人から相談を受けたことがあります。まあ相談というよりも質問と言った方がいいかもしれません。「大江さん、年金っていうのは老後に受け取るために大切なものですよね。だったらあまりリスクの高いもので運用しない方がいいんじゃないかと思うんですよ。でも将来ひょっとしてインフレになるかもしれないというリスクを考えた場合は、やはりある程度の期待リターンのもので運用しないといけないし。一体どちらが正しいのでしょうか?」

 実にもっともな質問です。ただ、ここで一つ考えておくべきなのは、「年金」と一口に言っても、「公的年金」と「企業年金」は全くその仕組みが異なるものだということです。敢えて誤解を恐れずに、極論で言ってしまうと、「公的年金」は運用してはいけない、あるいは運用する必要がないものですし、「企業年金」は運用しないといけないものなのです。別な言い方をすれば、公的年金は将来に亘ってお金が入ってくることが確実なのに対して企業年金は確実ではない、と言い換えればいいでしょうか?もちろんここで言ってることは物事をシンプルにするために極論、暴論に近いことです。細かい点で言うと“それは違う!”という点はたくさんあると思いますが、それはご容赦ください。

公的年金の構造

公的年金

もう少しわかりやすく言いましょう。公的年金というのは社会保障制度です。今その保障の恩恵を受けている人たち、すなわち65歳以上の人たちに支払われている年金は、今現役の人たちが払っている保険料と国が払っている保険料とを合計したものです。つまり原則はその年に払い込んだ保険料がその年に年金として支払われているという「単年度決済」の仕組みになっています。これなら日本人が絶滅したり、極端に減少したりしない限りは支払うための原資は確保されます。したがって、元々国の年金制度ができた時は、保険料を受取る人よりも支払う人の方が圧倒的に多かったため、単年度で年金を支払ってもお金は余っていたのです。そうやって余ったお金を今まで積立ててきてその残高が昨年末で128兆円あるというわけです。もちろんこれからは少子高齢化ですから今までのようにはいきません。毎年の払い込みと支払いがトントンならまだ良い方で、支払う方が多くなることが増えるでしょう。そのために今ある128兆円というお金が使われるのです。今のところは毎年1~3兆円くらいが使われているようです。したがってこの128兆円はあまり大きなリスクをとらずに安定的に管理・運用して、大きく増やすというよりは減らないような運用を中心に考えるべきはずです。

企業年金の構造

一方、企業年金というのは極端に言えば給料の後払いなのです。将来社員が退職した後に支払えるように会社が積立てておく仕組みです。但し社員が入社した時から積み立てていきますから実際に支払うまでの間、何十年もあります。それに企業が儲かっている時は積立てすることができますが、業績がすごく悪化したら年金の積み立ても行うことができなくなります。したがって将来に備えて積み立てたお金を一定の利回りで運用していく必要が出てくるわけです。公的年金の場合は、せいぜい物価上昇をカバーできるくらいの収益率で十分ですが、企業年金の場合はそうはいきません。あらかじめ予定利率と言われるものを設定し、その通りにならなければ会社がその分を穴埋めしないといけないということになります。

このあたりがどうもごっちゃになって議論が行われている面もあります。テレビや新聞のニュースで「年金」という言葉が出てきたとき、それは一体どちらの年金のことなのかをまず整理することが大切ですね。