公的年金を考える場合にどうしても損得で考える人たちが多いようです。払い得か払い損か?ということばかりを考えている人たちです。○歳まで生きれば得だけど、○歳までに死んだら損だとか、そういう話ですね。不思議なことにこういう人たちに限って、今度は生命保険は損得で考えるべきじゃないというのです。生命保険というのは安心感を買うのだ・・・と。
実は公的年金も生命保険も構造は同じです。多くの人がお金を出し合って特定の人のリスクに備えるという仕組みだからです。公的年金の場合は多くの人=日本国民全員、特定の人=65歳以上ということであり、生命保険の場合=契約者全員、特定の人=死んだ人となっているだけです。決定的な違いはただ一つ、年金は生き残った65歳以上の人に死ぬまで支払われるのに対して保険は死んだ人に支払われるということです。つまり年金は生きるリスク、生命保険は突然死ぬリスクに対する保険であるという意味では全く同じ考え方の仕組みなのです。
損得で考えてみましょう。公的年金の場合は長生きすれば得ですが早く死んだら損です。でも死んでしまったらそもそも損も得も関係ありません。生命保険の場合は、早く死ねば得、死ななければ損ですが、これとても死んで得したということにはならないでしょう。生命保険会社はその辺を上手に説明して「だから長生きしても損にならないように掛け捨てはダメですよ。積立式でお金が戻ってくる方がいいです」と言いますが、何十年も積立ててほとんど増えていないお金をもらってもほとんど意味をなさないでしょう。むしろ保険というのは突発的な事態が起こって自分にお金がなくても支払ってくれるという安心を買うものだという考え方は間違っていないと思います。
年金も同じなのです。長生きするかどうかなんて誰もわかりません。でも一番怖いのは長生きしてお金が無くなってしまうことです。だから公的年金は終身、つまり死ぬまで支給されるのです。実はこの「公的年金は死ぬまでもらえる」ということを知らないという人が意外にいるのです。先日も40代のサラリーマンと話をしていたら、「え!年金って死ぬまで貰えるって本当ですか?どうせもらえないものだと思っていた」というのを聞いて驚きました。
私は公的年金で全て安心とは決して思いませんが、少なくともこれが一番基本になるものであることは間違いありません。その上に自分で貯金をするなり投資をするなりしてプラスアルファの老後資金を作るのが良いと思います。生保の個人年金保険というのは最もやってはいけない選択であると私は考えます。保障と貯蓄は切り離して考えるべきで、できるだけシンプルな方が余計なコストがかからないからです。
でも面白いことに世の中には国の年金制度よりも民間の生命保険の方が信頼できると思っている人がたくさんいるのです。国民年金を払わずに生保の個人年金保険に入っているという不思議な人たちです。まあ公的年金制度は保険料を払わなかった人には年金を支給しませんから、別に私には何の関係もありませんが、金融機関やマスコミの宣伝が巧みなために間違った方向に向かわされているとしたら気の毒でなりません。普通のサラリーマンは問答無用で年金保険料を払っているのですから、少なくとも公的年金の受取額がどれくらいあるかは、「ねんきん定期便」で確認しておいてください。老後の資産形成を考えるのはそれからの話です。