ヒゲおじさんの独り言

「日本版401k」という言葉がもたらした弊害

確定拠出年金のことを「日本版401k」という人がいます。いや、マスコミの多くも未だに「日本版401k」と称しています。私はこの言葉が嫌いです。というか、この言葉がもたらした弊害はとても大きいと思っています。どういうことかお話していきましょう。

401kと確定拠出年金は全く正反対の制度

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実は日本の確定拠出年金とアメリカの401kは全く正反対の制度なのです。
もともと401kというのはアメリカで1970年代の終わり頃から始まった仕組みで、企業の従業員が自助努力で老後に向けた積立を行ない、国はそれを税制で支援する。そして企業は福利厚生の一環として、従業員が拠出するお金に一定の金額を上乗せしてあげる(これを本来はマッチング拠出というのです)アメリカには401kができる以前からプロフィットシェアリングプランとか、ESOPのような利益を従業員に配分するプランがあったため、これらの制度と401kが組み合わさったりして非常にバラエティがあります。

これに対して日本の確定拠出年金はもともと企業が従業員の老後のために積み立てていた企業年金・退職金を新たに確定拠出年金という企業年金制度に切り替えたのが始まりです。これは2000年におこなわれた退職給付会計の導入によって、それまでにあった企業年金の制度が一部、従業員が受け取れる権利(これを受給権と言います)が不十分であるということから、「選択の自由」と「受給権の保護」ということを目的として作られた制度の一つなのです。

日本とアメリカの違い

従業員

つまりアメリカの401kは従業員が自分のお金を出す、これに対して日本は退職金なのですから企業が掛金を出すということですので、全く正反対のスキームなのです。したがって、日本では法律で規定されていて、企業に義務付けられている従業員への投資教育が、アメリカにはありません。もちろん企業年金制度全般に対してERISA法(従業員退職所得保障法)という法律で様々な規制が加えられてはいますが、投資教育だけを独立してやりなさいというのは日本だけです。アメリカには確定拠出年金自体を規定する法律すらないのです。つまりアメリカの場合は福利厚生制度、日本の場合は退職金制度なのです。ところが本来なら企業が一括して管理運営すべき退職金・年金の運用を従業員個人に委ねるわけですから、当然、従業員が適切に運用できるように情報提供や教育をしなければならないということが我が国では法律で義務付けられているわけです(確定拠出年金法第22条)

日本版401kの誤解

社長

実際に適切におこなわれているかどうかということになると、いささか疑問ではありますが(笑)、これはまた別の機会に論じます。要は法律で規定されているという点がアメリカとは全然違うのです。ところが、マスコミをはじめ、色んなところで日本版401kという言葉が使われるものですから、あたかもアメリカの制度と同じであるかのように勘違いしている人が大勢いるわけです。私も現役時代、多くの経営者の方とお話しましたが、彼らの多くは「401kは自己責任なんだから運用がうまくいかなくても会社には責任はないよね。自助努力でやるんだからなぜ投資教育なんかしなきゃいけないの?アメリカだってやってないでしょう?」と言います。
私は「日本版401k」という言葉のもたらした大きな弊害がここにあると思っています。もともとこのお金は企業が管理・運営責任を負うべきものを従業員に代わってやってもらっているわけですから、確かに運用の結果の損得については企業は責任を負う必要はないものの、少なくとも適切な投資教育を行なったり、適切な運用商品を選定したりする責任は非常に重いものがあります。

そのあたり、企業は退職給付債務がなくなれば、ヤレヤレで、もう関心がなくなってしまう。本当に従業員のことを考えて、きちんと継続的に教育をやっている企業は非常に少ないのが現状です。

言葉は大切です。これらの問題は「日本版401k」という言葉で制度の本質を正しく理解せぬままに進んでしまっているところにもあると私は考えています。制度開始以来12年間にわたって、1500社以上の企業の導入に関わってきた人間として感じる実感なのです。

どうかマスコミのみなさんもいつまでも「日本版401k」などという言葉は使わず、正しく使い、広める努力をするようお願いしたいと思います。物事の本質を正しく伝えるのがマスコミの使命のはずですから。